ザラ場中の心の乱れは大負けへとつながるのがデイトレード。なんとしてでもこの時間帯に心を乱すのだけは避けたかった。しかし妻との喧嘩は無情にも始まってしまう。
そして買い指値の消し忘れによって大負けへの扉もすでに開かれてしまった。
前回のお話はこちらです。
第68話 聖戦再び
自分の中では大復活をしたと思っていた。それでもマイホーム購入への道を考えると復活どころかその糸口さえつかめないくらいの収益だった。悩む日々は自然と増えていった。 夫婦喧嘩の8割はお金絡みという格言に沿 ...
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夫婦喧嘩は平行線で終わりが見えず
含み損が大きくなったのを見て本格的に応戦しようと決めた。
負けを人のせいにするなんて言語道断ではあるが、今回ばかりは100%俺のせいじゃない。俺はこうなるのが嫌だから後にしてくれと言っていたんだ。
こんな風に言い争いさえしていなければ指値の消し忘れなんて90%なかっただろう。
許せねぇ。
いつもこいつのために俺は悩み苦しんでるんだ。それなのにいつだって邪魔ばかりしやがる。どうせデイトレーダーという職業を仕事として認めてねぇんだ。心のどこかで遊びと思ってるんだ。
絶対に許せねぇ。
俺「後にしろって言ってんのになんで今日に限って今なんだよ。デイトレは心が大きく関係するって言ってんだろうが。そのせいで今俺はこんな事態になってんだよ。少し考えろよ」
妻「だっていつもすぐ反省しないと怒るじゃん」
俺「いつも落ち着いてから反省したいって言って落ち着いてからも反省なんてしたことねぇじゃん」
妻「してるよ」
俺「してねぇよ」
妻「してる」
俺「そんなバカみてぇにすぐ繰り返すのは反省してねぇからだろ」
妻「反省しても繰り返す場合はどうすればいいの」
なんなんだよ!なんだこいつは!うっざいわ。
本当に俺はこんなやつのために毎日苦しんでいたんだ。デイトレで勝っても勝っても満足出来ず、家という目標が遠いことを嘆いていたんだ。なんでこんなやつのために!
もうやってらんねぇ。マジでどうにでもなれ。
パソコンを放り投げた。
まだ買い指値は残っていたがそんなのは関係ねぇ。家さえ目標にしなければ俺の勝ち額は十分だ。子どもを養ってもお釣りが出るレベルにはなっている。
こんなやつのために家なんて買う必要はない。
こんなやつのために俺が苦しむ必要はない。
何を言ったって屁理屈が返ってくる。あーいえばこーいうの典型。しかも話が噛み合わない。
無駄無駄、全てが無駄だ。
その後も言い合いは続いた。平行線だ。
反省しても繰り返すというのはわかる。それが人間だ。特にデイトレードではお金がかかっている。実益、実損がかかってくるだけに人間の本能にはなかなか逆らえない。
だからこそリカクは早く、含み損を引っ張ってしまうという本能に勝てない。
相手が本能だからこそ繰り返しても繰り返してもまた反省するんだ。
結局のところ反省しかない。
何度も反省することによって、毎回同じ反省をすることによって「またこの反省だ」と自分に気付かせるしかない。本能を制御出来るくらいにこうするとこうなるという悲劇を自分に植え付ける。
そうすることでロスカットがやっと出来るようになるんだ。
少なくとも俺はそうやって自分の心を鍛えてきたつもりだ。
こいつは開き直った。
開き直ってロスカットをしないと決めた。
だからこそ俺の買値を真似て買値にこだわるようになった。だとしてもロスカットしなければならない時は必ず訪れる。それでも行動をしない。
俺がロスカットしたことを伝えても「私はしない」の一点張り。
いつかの喧嘩でも話した。その考え方はずっと連勝してもいつかどこかで破滅を招くと。
結局何も響いてなどいなかったんだ。
限界だった。
俺らは絶対に家を諦めるべきだと強く感じた。
家を買おうとすれば今後も俺はこのペース以上で勝っていかなければならない。さらに塾も頑張る必要がある。そして毎日のように資産を脳内計算して未来予想図を考える。
そして毎朝プレッシャーで吐き気と戦う。
こんな日々が何年も、下手すれば10年以上も続く。そしてそこまでしても家を買えるかどうかなんてわからない。そもそもデイトレで暮らしていけるかどうかもわからない。
無理だ。
妻のために頑張っているという事実も追い打ちをかける。
こいつのために頑張っているのにこいつはなんなんだ。
そういう負の感情が俺を支配する。
良くない傾向だ。お互い好き同士だ。
それでもお互い負けず嫌いの性格。そしてなぜか妻は俺に対してプライドを持っている。
なんでだよって言ってもわからないと言うこの妙なプライド。
どうすればこの悪循環から解放されるのだろうか。
金銭的に助かることは助かるが、これでは妻がデイトレをやっているメリットはまるでないと言い切れる。結果的に俺の心が破壊されてしまうようでは家計にも大きく響いてしまう。
俺はこんな日でも塾に行かねばならない。
こんな気分で生徒に授業をするのは俺だってしんどいんだ。
俺「もう家なんて買わねぇ!てめぇのために頑張ることなんて何もない!」
そう言い切ってこの喧嘩を斬って捨てた。
永遠に終わらないように感じた。
何に対しても屁理屈で返されるとバカバカしい気持ちが強くなってくるし、それでいて正論で対応すると全く違った角度から返ってきたりする。本当に労力の無駄だ。
俺は冷静になって考えた。
今俺がやるべきことはなんだ。
こいつに構ってくだらない喧嘩を続けることか?
違うだろう。そう、俺がやるべきことはデイトレだ。
そう思って颯爽と投げ捨てられていたパソコンを拾う。
含み損の画面を見たら30万負けになっていた。
あぁ・・・終わったぜ・・・