学習塾起業と同時に数件の問い合わせをもらった。彼女の作った広告が機能したのだ。頑張ってポスティングをしたかいもあった。
面談もうまくいき、開業でいきなり4人の生徒を受け持つことが出来た。
順調なスタートを切ることが出来たのだ。
前回のお話はこちらです。
第12話 学習塾とデイトレーダー
デイトレーダーと家庭教師を続けながら、いよいよ学習塾への起業が見えてきた。開業元年となるはずの2011年だが、突然大きな壁が目の前に立ちはだかる。 無事起業、そして結婚へと進めるのだろうか。 前回のお ...
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起業大成功と結婚への道
4人の生徒から始まった学習塾だが、未来が明るかったわけではない。
初めての授業から数日後、あの関東大震災が起こったのだ。
揺れた。
ポスティングの最中だったが、道路で立っていられなくなるほど揺れた。
その後いったん塾に戻ると本棚からテキストが落ちてきた。しかし大きな被害はなさそうだった。
開業からまだ数日なのに、その日の授業は中止にせざるを得なかった。
電車も止まっていたので、彼女を迎えに行くなど、大変だった。
土日を挟み、人々の生活は落ち着いたかに見えたが、計画停電など、初めての経験も多かった。
計画停電の中で授業を組み直したりと、しばらくは通常授業が出来なかった。
それでも少しずつ授業は出来たので、生徒とも打ち解け、楽しく授業は出来ていた。
しばらくして計画停電もなくなり、通常授業が出来るようになった。
新聞折込やポスティングを使えばもう少し生徒を増やすことが出来るかも知れないと思いつつも、安くはない広告費を考えると簡単に次の一手を打つことなど出来なかった。
しかしゴールデンウィークが過ぎた頃、最も効果的な宣伝方法を知ることになった。
5月も中旬差し掛かった頃、1件、また1件と問い合わせがくるのだ。
広告も入れてないのになぜ・・・そう思っていたが、面談の時にその謎が解ける。
「〇〇さんから紹介を受けまして」
「〇〇さんが通っていて良いと聞いたので」
そう、口コミだ。
見ず知らずの相手ではなく、気の知れた友達同士、ママ友同士での会話の中で伝わる宣伝方法、それが口コミ。当然信頼度は抜群であり、この人が言うのなら・・・そういう気持ちになるものだ。
あれよあれよという間に俺の塾は先生1人に生徒12人という大所帯となった。
そして6月の中間テストを終え、ここで多くの生徒が結果を残してくれたのだ。
これによって「楽しい塾」というだけでなく、「成績が上がった」という口コミが加わった。
夏期講習のチラシを入れた後、さらに生徒は増えて19人にもなった。
月曜から金曜までフル出勤で16:30~22時の間働き続けた。授業に空きなどなかった。
当然デイトレも続けていたため、身体は悲鳴を上げていった。
それでも金の心配をするよりはるかに良かった。
俺は無心で働いた。
夏期講習になると、売上が120万を超えた。もちろん夏期講習の売上だから一過性のものなのだが、「これが月収100万か!」そんな喜びに打ち震えた。
弟と同じ土俵に立てた気がした。
デイトレではついに本格化出来なかった俺が経営者として成功が見えてきた。
全く手を抜くことなく一生懸命授業をし、秋にはさらに生徒が増えた。
忙しかったという理由もあるが、塾の方がはるかに儲かるという理由から、デイトレも徐々にやらない日が増えていった。
そんなある日、外食中に彼女に突然言われた。
彼女「そろそろ結婚に向けて動かないと困るんだけど」
俺「あ、え、すぐ!?」
彼女「すぐだよ」
俺「あ、はい」
逆プロポーズのようになってしまった・・・。
学習塾の経営者という肩書きを手にした俺は結婚も許してもらえると思い、2人で結婚に向けて準備をしていった。彼女の両親への挨拶にもすぐに行った。
何度も遊びに行っていて、よく知ってもらっていたこともあるだろう。
特に反対されることもなく、両家の顔合わせも含めとんとん拍子に事は進んでいった。
そして11月になり、俺らは籍を入れた。
まだまだ塾は忙しくなる。デイトレなんてやっている場合じゃない。
いっぱい稼いで妻を幸せにするんだ。そのために俺に必要なのはデイトレではなく、塾だったのだ。
幸い2年生も多く入塾してくれたので、来年度も収入に困ることはないと感じていた。
翌年、3年生は1人が第二志望校になったしまったが、他は全員第一志望校に合格し、何より全員がきちんと合格出来た。俺自身も大きな充実感を得ることが出来た。
そして4月、俺らは式を挙げた。
金にも余裕が出来てきたので、自分たちが望む式を多少予算オーバーになっても挙げようという話になった。そして豪華で満足のいく式を挙げることが出来た。
それも全て塾のおかげだ。
これこそが俺の天職だと思えた。
そして俺は経営のセンス、才能もあるのだと思った。
何より自分の想像通り、2012年も新3年生は口コミで増え、夏期講習時には昨年同様3年生だけで12人となり、夏期講習時の収益は120万を超えていた。
このまま順調に生活が出来ると思っていた。
しかし今思えばこの時すでに『調子に乗っていた』のだろう。
デイトレでも同じだった。調子に乗った者がその後どうなっていくのか嫌というほど見てきたはずだ。
それがまさか学習塾の経営においても同じことになるなんて夢にも思わなかった。
弟も相変わらずの日々だった。株の話は時々したが、目ぼしい話は何もなかった。
また、結婚式の頃から、最近やらなくなっていた携帯ゲーム熱が再燃していた。
昔好きだったアニメのゲームが配信開始となったためだ。
このゲームが原因でいずれ大変なことになってしまうのだった。