デイトレーダーとして限界を感じていた俺。このままだと生活は出来ても余裕なんてとても出来やしない。心の余裕だってどんどんなくなってしまっている。
永遠に共働きじゃないと暮らせないような稼ぎが確定している男と結婚というのも彼女に悪いと思ったし、何か変えていかなくてはならない時期になっていた。
前回のお話はこちらです。
第9話 人生最大の負け額にデイトレーダーとしての限界を感じる
変わらぬ日々に何かしなきゃ、何かしなきゃと思っていた。弟が再び成功したことも引き金となっていた。長いこと頑張ってきたことをほんの一瞬で抜かれることもある。 この恐怖は多くのものを狂わせていく。 前回の ...
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弟の株復帰と将来のビジョン
俺が立ち直れなくなるほどの大負け、83万負けを喫した頃、高給取りとなった弟が再び株式市場の扉を叩こうとしていた。
以前の仕事と同じか、それ以上の給料をもらうようになっていた弟。
それでも株をする時間はかなり確保出来るということだった。
そう考えると前よりも時間効率の良い仕事になったということだろう。
俺と同じようなデイトレードもするし、以前のような大味トレードもするし、持ち越しもする。
何でもするトレーダーとして現場復帰したのだ。
俺は弟がここで才能を発揮するんじゃないかという怖さもあったけれど、そんなことよりも自分の今後が不安で不安で仕方なかった。
どんなに表面上で笑っていても、内側では常に金の計算をしていた。
金のことを考える毎日がストレスだった。
7月に入り、あることを閃いた。
受験生を3人受け持っているのだから、夏期講習をする必要がある。しかし1日6時間前後にも及ぶ夏期講習を全員にする時間などない。ならば・・・まとめて夏期講習だ。
3人の生徒の家の真ん中あたりに俺の友達の家があった。
そこを家賃を払うことで昼間だけ借り、3人を相手に夏期講習をするのだ。
夏期講習と言えば塾も家庭教師も1年間で最も利益の出せるシーズン。
そこを最も効率的にやろうと思ったのだ。
9時~15時は株、そして15時半~22時までを夏期講習として設定した。
とんでもないほどの仕事量と時間拘束となるのは覚悟の上だった。
何かに打ち込んでいた方が余計なことを気にしないで済むからだ。
3人の家庭もその方針を快諾してくれた。まとめて行うことにより、かなり安く値段設定をしたため、周りの家庭が受ける夏期講習費より格段に安くなったことで喜んでもらえたのだ。
この作戦は株にも生きた。
初めて株以外でまとまった収益をあげられるようになったことで、株で無茶をしなくなった。色々と台無しにしたくもないので、傷が浅いうちにロスカットも出来るようになった。
ただそれでも今後への不安が消えるわけではない。
せっかくうまく回っている今、今こそ何か出来ないか考えた。
うまくいかなくなってから何かを始めるのでは遅いということは学んだ。
だからこそ家庭教師の仕事があるこのタイミングで考える必要があったのだ。受け持った生徒たちは皆、中学3年生だ。卒業して高校生になってまで家庭教師を続けることはないだろう。
だからタイムリミットは来年の2月だ。
それまでに現状を打破出来る決定的な何かを探したいと思った。
弟の株はどうなっただろうか。
そこまで詳しくは聞かなかったが、仕事は平日休みが2回あり、始業時間も9時半過ぎと遅めのスケジュールらしい。
もちろん始業時間には会社に行くのだが、それまでは株と向き合う時間もあったようだ。
基本給もかなりあり、さらに歩合制ということで頑張れば頑張るほど給料ももらえていた。
そういう環境もあって、仕事の合間に株価をチェックしたりデイトレしたりも、やろうと思えば出来る環境らしいのだ。
ギリギリまで株が出来るのは会社が家から近かったからだろう。単なるラッキーなのだろうか。
それとも弟がその環境を狙って会社の近くに家を借りたのか。
そのあたりも定かではないが、人生計画が本当にうまいもんだと改めて思った。
弟のすごいところは、転んでもすぐに起きるところだ。
もちろん本人の努力によるものだろう。
しかし周りからするといとも簡単にやってのけているように見えるのだ。
俺もすぐに起きられるタイプだとは思うのだが、弟は倒れたその反動で起き上がるくらいに即起き上がるのだ。そして想像出来る範囲を飛び越えて何かをする。
では、俺自身の強味はなんだろうか。
俺にはやれることは限られている。直感、閃きで何か出来る能力がない。
しかし考える力には長けていると思う。
考えに考え、さらに考え、どこまでも考える。そんな力はあるつもりだ。
ならば、想定の範囲内の中で最善の策を取ることは出来るのではないか。
イレギュラーに弱くとも、こうすればこうなり、こうすることでさらにこうなるという道筋を立てることは出来る。そしてその通りに動かす行動力が身に付けば色々出来るはずだ。
サラリーマンとして朝起きることさえ嫌った。
満員電車を嫌った。
移動時間を嫌った。
誰かの下で働くことを嫌った。
仕事において誰かと関わることを嫌った。
そんな俺が生徒を受け持ち、人と関わっている。移動時間も使っている。
少しずつでも成長しているんだ。
これからもっと色んなことを出来るようになっていきたいと思った。
そしてその思いはすぐに動きを見せるのだった。