今度こそデイトレ成績は安定するかに思えたものの、夏期講習が終わり、携帯ゲームのサービスも終了し、時間が余るようになるとついついやる気欠乏症が出てきてしまった。
それでも利益が出せていたことだけは救いだった。
そんな時、弟から思いがけない言葉を聞くことになる。
前回のお話はこちらです。
第41話 必然の下り坂
2015年8月、全てにおいて充実した日々を送れていると感じた。 何度も挫折を味わったデイトレだが、今回こそは違うと感じ、それが確信と変わった時でもあった。そういう意味では必然だったのかも知れない。ここ ...
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ポジティブモンスターがネガティブ思考に
弟のDはポジティブモンスターだ。
恐ろしいまでのポジティブモンスター。
サラリーマン時代、いくら負けようとも最終的に勝てるようになることを信じて疑わないようだった。負け額が大きくなっても元気にポジティブだった。
専業トレーダーになり、退場してからもポジティブだった。
転職後、さらに負け額を更新してもポジティブだった。
そしてそのポジティブ思考が億り人という境地まで誘った。1億を手にした翌日、半分の資産を失ってもポジティブだった。そのポジティブは2回目の億り人へと誘った。
2回目の億からもあっさり陥落した。
それでもポジティブだった。
もちろん落ち込むこともあるだろう。
嘆くこともあるだろう。
ただすぐにポジティブ思考に流れてしまうポジティブモンスターだ。
今年の8月、お互いにピークだった頃の会話ではかなり調子が良さそうだった。
俺も調子に乗っていたが、弟も調子に乗っている様子だった。
この時の資産がいくらまでいったのかはわからない。
ただ俺の認識としては、弟はデイトレとスイングを併用していて、証券口座にそれなりの金額が入っていた。それだけでなく、生活費などを銀行口座に別口で入れていたはずだ。
もし9月以降、俺と同じく調子を崩したとしても、今すぐどうこうなることはないだろう。
そう思っていた。
しかし塾にいた時、弟からきたチャットのトーンは軽いものではなかった。
D「俺って本当にダメだなぁ」
俺「え?何したの?」
D「負け続けてる。ちょっと前も午前中100万勝ったのに午後100万全部負けた」
俺「どのくらいの資金での話?」
D「確か100万ちょっとの資金で100万勝ったけど全部負けた」
おぉ・・・相変わらずのボラ男くんだ。
でもこんな資産の動きは弟にとって日常茶飯事のはず。負け続けてるとは言え、このトーンは何なんだろうか。一体この数か月でどのくらい負けたというのだろうか。
俺「まぁ生活出来ないほどじゃないでしょ。ゆっくり勝てばいいんじゃん」
D「いや、生活費も全部入れちゃったんだ」
俺「え、マジかよ。今全部でいくらあんの?」
D「多分全部で40万くらい」
いやー、いやいや、マジか。マジかよ。ここまで落ちるものか。
いくら金が減ったとは言え、俺が最後に聞いた時はまだ1000万どころか2000万以上あったと記憶している。ここまで金って短期間でなくなるものだろうか。
確かに信用余力を大きく使うトレードをしていれば資金の大半を失う危険がある。
弟は常に信用余力MAXでトレードをしていたので当然と言えば当然だ。
ただ、弟は別口座に生活費も置いていた。
それも含めてなくしてしまったというのはにわかに信じ難いことだった。
とにかく聞いた。なぜそうなってしまったのかを。
8月までは順調で、ピーク時には900万くらいの勝ちになっていたそうだ。しかし11月の時点で100万ちょっとの勝ちにまで落ち込んでしまったのだそう。
年間収支はプラスであっても、これは専業トレーダーの定め。
生活費まで考えれば大幅なマイナスとなっていたのだ。
それだけでなく、弟は2013年に大きな利益を出した時、個人年金のような何かの保険に入っていて、毎年かなり掛け金を入れる契約をしていた。それも足枷となったのだ。
とりあえず授業は中断・・・というか問題を多く出して時間稼ぎをした。
生徒には申し訳ないが、ポジティブモンスターが恐ろしいまでに落ち込んでいる。
兄としては集中して聞きたいと思った。
俺も9月、10月、11月と徐々に成績が下がっていたわけだが、弟はそれどころの話ではない。
もはや働かざるを得ない状況だ。
9月以降ここまで負け続けた人間がいきなり変わるはずはない。
所持金が40万程度では来月の生活費を払えば所持金などほとんどなくなる。信用取引が出来る最低資金の30万を大幅に割ってしまうことは確実だ。
さすがの弟も昨夜は眠れなかったらしい。
今後のことや老後のことまで考えると不安で不安で仕方なかったそうだ。
相当な重症だと思った。
少なくとも俺はこんな弟を見たことがなかった。
話は続いた。
D「兄ちゃんに弟子入りでもするしかないか(笑)」
「さすがにもう引退しようと思う」
「もう勝てる要素はないと思う」
時々ポジティブさが垣間見えるものの、基本的にはネガティブモンスターと化していた。
ただこのネガティブモンスター、時に自信過剰とも思えるセリフを言うのだ。
俺はネガティブモンスターの先輩だ。
ネガティブであることを利用して勝てるようになったクチだ。
だからネガティブ思考というのは悪いことばかりではないと思っている。
弟はまだまだ完全なネガティブモンスターにはなれていなかった。
兄弟の会話は授業中にも関わらずまだまだ続いていくのだった。