「ふぁー・・・よく寝た。ん、なんか暗いと思ったらもう16時過ぎてるのか」
毎日明け方までインターネットでチャットをしたりゲームをしたり、そして朝に寝ては夕方まで爆睡。これが俺の生活リズムだ。誰がどう見ても単なる社会不適合者。立派なニートだ。
株との出会い
俺はR(アール)。高校は頑張って良いところに入った。しかし大学に入ってからはパチンコ、スロットに目覚めてしまい、学校に行くよりも近所のパチンコ屋に並ぶ日の方が多くなっていった。
当然のように単位は取れず、2年も留年をして弟のD(ディー)と同学年になってしまった。
6年生で無事卒業したものの、周りが頑張っていた就活などは一切せず。まるで就職する気のない俺を見て父に説教され、言い争いになったこともあった。
弟はきちんと就活をして高給取りのサラリーマンになった。親も喜んでいた。俺は家を出て一人暮らしになった。スロットで貯めた550万円を食い潰すニート生活に突入した。
何時までパソコンでインターネットをしていても誰にも文句を言われない。
何時までゲームをしていても自由だ。
本当に楽しかった。何をしていても満たされているように感じていた。しかし心のどこかでこの生活をいつまでも続けることは出来ないと感じていた。収入がないからだ。
毎日のように朝方寝ては夕方まで寝ていたのだが、たまに昼頃に目が覚めた日はパチンコ屋に行き、スロットで少しばかりの金を得ていた。しかし昔と違ってなかなか稼げなかった。
いつまでもこんな生活を続けたい。
でもそれは難しい話。何か楽して儲けられる話はないだろうか。
宝くじを生まれて初めて買ってみたが、当たるはずもなく。
今頃高給取りとなった弟はどのくらい金を貯め込んだのだろうか。
しばらくして、弟に久しぶりにインターネットのチャットで連絡をしてみた。
R「元気してる?」
D「元気だよ。株ヤバイけど(笑)」
株・・・あの堅実だった弟が株か。
弟は小さい頃から堅実だった。お小遣いももらったらすぐに使ってしまう俺に対し、もらったお金は常に貯金をしていた弟。ギャンブルも大好きだった俺と全くやらない弟。
ただ、弟の就職が決まってから俺が少しスロットを教えると、けっこうハマったらしく、パチンコ屋に通ってそこそこ儲けを出していたようだ。もしかしたら俺が弟のギャンブル魂を目覚めさせてしまったのかも知れない。
D「兄ちゃん金持ってる?200万くらい貸してくれない?利子取っていいからさ」
R「え、まぁあるけど、大丈夫なの?」
金の切れ目が縁の切れ目とは言うけれど、弟は高級取りのサラリーマンであって、返してもらえなくなることはまずない。収入はないけれど食い潰している最中の貯金は幸いまだまだある。
少しでも利子をつけてくれるなら貸した方がいいだろうと思って貸した。
それからしばらくしてのこと。再び弟とチャットで連絡を取った。
D「兄ちゃん暇なら株やればいいのに。デイトレっていうやり方があるんだよ」
R「怖いからいいよ。Dだってそんなに負けてるんでしょ」
D「でもパソコンの前に張り付いてデイトレードさえ出来れば勝てると思うよ!」
今思えばこの頃から弟は根拠のないことを自信満々に言っていた。しかしよくよく考えると俺はこのままニートを続けていれば1~2年で確実に貯金が尽きてしまうだろう。
株について調べてみると、生き残れる勝ち組は5~10%程度。
スロットでの勝ち組も調べると5~10%程度。
同じならば俺にも勝機あり。そう踏んで株にチャレンジしてみることにした。そして弟に詳しいやり方を聞き、ついにデイトレーダーとしてデビューをすることになった。
株を始める上でものすごく辛かったのが「早起き」だ。
朝に寝て夕方起きる生活をしていた俺が9時前に起きるなんてことはとんでもないこと。
高校生くらいだと、「趣味は寝ること」という人がけっこういる。俺も例外ではなく寝ることが大好きだったので、この9時前に起きなければならないというのは最後まで株をやろうか迷う要因だった。
それに明け方まで起きていたのはインターネットチャットやオンラインゲームを楽しんでいたからであって、話し相手や対戦相手なども当時いた。
この世界から離脱することで自分の楽しみが減ってしまうというつらさもあった。
さすがに明け方までの遊びと株の両立は無理だろうと悟っていたからだ。
それでも「働かずに楽に稼げる可能性がある」という魅力は強く、思い切ってその時の生活を捨て、株で生きていこうと決意した。
いきなり寝坊はしたくない。
弟に言われたように監視銘柄というものを前日にきちんと選んでおき、いくつか登録しておいた。その中の銘柄を選び、買った値段より高く売れれば勝ちということだ。
そんなに難しく考える必要はない。
このままニート生活を続けるためには株で勝つしかない。
俺はスロットでも勝ってきたんだから株でも勝てるはずだ。
この時の俺はこれから起こる悲劇など知る由もなく、希望に満ち溢れていた。