燃え尽き症候群となり、デイトレのやる気はほとんどなくなっていた。弟は熱意を持って続けていたし、妻もなんとか稼げるようになろうと弟から一生懸命学んでいた。
俺も一生懸命頑張っていた。携帯ゲームを・・・。
前回のお話はこちらです。
第28話 燃え尽き症候群
夏期講習が始まり、とてもハードな毎日となったが、それでもきちんと毎日兼業トレーダーとしての生活をこなしていた。塾もデイトレも疎かにせず両立出来ていた。 思えばこの時は頑張り過ぎだったのかも知れない。 ...
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熱中出来るものが俺にはある
デイトレに復帰したことで多忙な日々となり、以前ほどの時間は割けなくなっていた携帯ゲーム。それでも結婚式の頃から1日たりとも休んだ日はなかった。
もはや日課となっていたのがこの携帯ゲーム(スマホゲーム)だ。
課金をしているわけではない俺が全国1位でいられるのには少しカラクリがある。
俺の熱中している携帯ゲームは40人で1つの軍となり、軍でバトルをするのだ。司令塔が必要で、戦力+団結力がモノを言うゲームなのだ。俺はその司令塔として軍を指揮する立場だった。
そのため、課金して戦力を整えるよりも頭の回転力が大事だった。
また、上司がいるような仕事ではないため、合間の時間を全て注ぎ込むことも出来るわけで、時間がモノをいうようなイベントで力を発揮することで戦力もアップさせていった。
この努力が株で出来たならもっと稼げるだろうに・・・というのは自分でも思う。
色々と不運な巡り合わせだったと思う。
デイトレに復帰したことでそれまでよりも出来る時間が減った。
夏期講習にも突入し、さらにゲーム時間は削減された。
それでも毎日必ずやっていた携帯ゲーム。
9月になり、デイトレのやる気がなくなり、夏期講習も終わった。
まるで限界まで引かれた弓矢のごとく急速に俺の携帯ゲーム熱は再燃した。
実は朝起きることもあった。それでも携帯ゲームの作業を終えたらまた幸せの二度寝へ突入する日々だった。起きるのはお昼が当たり前で、妻と弟がスカイプで反省会をしているところに堂々と起きてくるなんてこともよくあった。
携帯ゲームも頭を使うのだ。目も頭も疲れる。それだけ本気だった。
所詮ゲームというのが妻の考えなのはわかるし、それが当たり前の意見だというのもわかる。
しかし携帯ゲームも考えれば考えるほど奥が深い。
40人で1つの軍ということもあり、まとめるのは非常に大変だ。40人それぞれ課金出来る額にも違いがあるし、費やせる時間にも差があるわけだ。
それぞれの状況を把握し、その時その時の戦力を計算し、考えて指示を出す。
それが俺の役目だった。
そして相手の戦力も考えつつ、相手の指揮者の思考を読む。その上で一歩先をいくことで勝ちに近付く。戦力的に劣る時は裏をかくことで相手を出し抜く戦略を立てる必要があった。
作戦が見事にハマり、接戦を制した時の爽快感はデイトレ以上のものがあった。
全国1位を走り続けていることもあり、ゲーム内では超有名人。
羨望のまなざしで見られることもあれば憎き相手、倒すべき相手という目で見られることも珍しくない。
時には2位、3位の軍が徒党を組んできたこともあった。
多くの人たちが俺らを倒すためだけに必死になってくるのがプレッシャーでもあったが、心地良くもあった。デイトレではそんな存在になれるわけではない。
弟にもこの先どうあがいても勝てる気がしない。
でもゲームの中では皆が俺を目標にして頑張っているのだ。
ここに救いを求めるかのように毎日努力を重ねた。
そんな携帯ゲーム中心の日々を送る中、さらなる火種が出てきたのだ。
なんとなく塾でインターネットを開いていた時、パソコン用のブラウザゲームが目に入った。俺らの世代なら誰もが知っている有名なRPGゲームのパソコン版オンラインゲームだ。
「ふーん」くらいの気持ちで試しにやってみると・・・面白い・・・。
すぐに妻と弟に教えた。一緒にやろう!と。
携帯ゲームも四六時中いじっているわけではない。
軍の対抗イベントがない期間もあり、暇を持て余す時だってあった。
しかしデイトレ熱はどうしても回復せず、何もすることがない日もあった。
そこにピタっと当てはまるピースが登場してしまった瞬間である。
俺はこのブラウザゲーム、携帯ゲーム、塾の三本立てで生活を送るようになった。
もちろん早く起きて眠れなくなった時などはデイトレもした。
しかしやる気のなさが物語るようにこの月はほぼプラスマイナス0という収支だった。
生徒の数が増えたわけでもない。いや、増えるはずもないのだ。俺は携帯ゲームに没頭し、デイトレを放棄し、塾の広告を出すことさえ面倒で放棄してしまっていた。
経営者という肩書きはあるものの、実際は単なるニートのような生活になっていた。
こんなはずじゃない。なんとかしなければ。
そう思うと焦りも感じたが、結局動くことはなかった。
弟はまぁまぁ大きな収益を挙げ、妻も初めて良い収益となった。2人とも輝いて見えた。
俺も何か輝ける何かが欲しかった。
しかし輝きたいと思えばゲームを開く日々になってしまっていた。ゲームの中では最も輝くことが出来たのだから。
そんな中、俺が輝ける案件がいよいよ始まろうとしていた。
それは妻の労働審判だ。
そう、弁護士がしばらく後で行動を起こすと言っていた労働審判がついに動き出すのだ。