専業デイトレーダーになった弟は数日で資金を2倍近くにするという離れ業をやってのけたが、その後また数日で半分になるというオチまでつけてきた。
仕事としてトレードをするならば生活費も稼がなければならない。そのことが重くのしかかる世界なんだと改めて思った。
前回の話はこちらです。
第6話 溢れる才能!トレーダーとしての器の違い
2009年6月下旬、弟は最後のボーナスを手にして3年間勤めた会社を辞め、専業トレーダーになった。成功して欲しいという気持ちとともに、専業トレーダーとして先輩の俺が置き去りにされる恐怖も感じていた。 弟 ...
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トレーダーは常に退場と隣り合わせ
弟に一気に置いてけぼりにされたわけだが、結果的に弟が戻ってくるというオチがついてコツコツ稼ぐデイトレーダーであることに意味を見出すことが出来た。
しかし7月に入り、選挙の影響を受けた相場でまたも30万円を超える負けを喫する。
強い精神力で月の収支はプラスに出来たものの、8月になっても一向に調子は上がらなかった。
9月になり、やっと調子が戻ってきたものの、やはり生活費という意識が重くなってきた。
家庭教師は続けていたが、やはり月に3~4万では心の安定にしかならず、家計を助けてくれるところまではいかない。彼女は十分な給料をもらっていたと思う。
しかし男としていつまでも生活費を折半してもらっているのも悪い気がした。
出来ることならばもっと贅沢をさせてやりたい。
もっと色んなところに連れていってあげたい。
でもそのためには正社員になっての兼業トレーダーか、デイトレの成績を格段に上げるかのどちらかしか方法はなかった。そしてどちらも俺にとっては高すぎるハードルだった。
そして弟もやはり心配していた通りうまくいかないようだった。
何か変えたいけれどどうにもならない。
そんな日々だったが、表面上は安定していた。過去最長の連勝も記録した。
しかしそんな矢先、事件は起きた。
弟が退場すると言うのだ。
つまりデイトレーダーを辞めて働くということだ。
あれだけ高給の会社を辞めてまで専業デイトレーダーになったわけだから、ちょっとやそっとで諦めることはないだろう。生活費もなくなるくらい負けてしまったのだろうか。
しかし弟はまだ50万ちょっとの資金を残していた。
弟のやり方であれば50万円からでもまだチャンスはあったはずだ。
それなのになぜ退場するというのか・・・。
母親と話してみると、とんでもない事実がわかった。
前年は高給取りのサラリーマンだった弟。
2009年の住民税は必然高くなる。請求が来たのは6月頃だっただろうか。
たくさんお金を持っていたはずだが、払わずに先送りにしていたらしいのだ。
残り50万となった弟は住民税を払うことさえ出来なくなってしまったのだ。当然生活費もなくなってしまう。母親に100万円借金をし、再就職をする決意をしたとのことだ。
ショックだった。
俺なんかよりも株に対して、デイトレに対して並々ならぬ情熱を持っていた弟。
あんなに頑張って研究をしていたのに結局半年足らずで退場になったのだ。
もちろん当初の俺の予想通りではある。でも、でもそれでも・・・。実際にここまで追い込まれることは想像出来なかった。俺の認識も甘かったということだろう。
デイトレは孤独な作業だ。
時々でもデイトレ結果や株銘柄の話を出来ることでずいぶん息抜きが出来ていた。
なのに弟が再就職となるとまた話し相手がいなくなってしまう。
色んな思いが巡ってきた。
そして俺もいつ退場になるかわからないんだという危機感も再認識した。
弟が退場・・・このショックをきっかけに数日間の連敗で信じられないくらい負けてしまった。Dショックとでも名付けようか。まぁたまたまなんだろうけど、本当にいきなり勝てなくなった。
少し心を軽くしたいと思い、得意な午前中だけにトレードを絞ることにした。
そうして12月は全勝と調子を取り戻し2009年を終えた。
月に3~4万の給料とは言え、家庭教師により定収入を得ることで心は安定した。
しかしそのことでデイトレーダーとしてもっと高みにいけるのではないかという期待は見事に裏切られたままだ。そして弟も退場してしまう。周りの友達も皆立派な会社に就職していた。
よくよく考えてみれば彼女もきちんと正社員として就職したのだ。
弟も退場してまたきちんと社会に出て働くわけだ。
あの頃よりもさらに1人ポツンと取り残されてしまうような感覚になった。
俺がサラリーマンになるつもりはないというのは変わらない。
でも周りが皆就職してしまうことで感じるつらさは以前よりもはるかに大きい。
兼業とは言え、このままデイトレーダーを続けていける自信はなくなっていった。
それでも今の俺にはデイトレードしかない。しばらくトレードで生活費を稼ぎつつ、何か他のことが出来るチャンスが来るのを待とうと思った。
弟はサラリーマン時代の経験を生かし、インセンティブ制、出来高制の営業職に再就職した。
思い立ったら即行動というか・・・本当にすぐに仕事を見つけていた。
こんなに簡単に仕事って見つかるものなのかなと思うくらいにだ。
そしてその新たな職場でもまた、弟は有り余る才能を発揮することになるのだった。
弟よ・・・また俺を置いていってしまうのか。