弟の資金は短期間で3倍になっていた。額の面で見ればまだまだ大したことはないものの、過去の躍進時と似たものを感じた俺はそわそわする毎日になっていた。
そして瞬く間に弟は俺を追い抜いていくのだった。
前回のお話はこちらです。
第47話 手法変わらずも転機到来
いよいよ落ち込むだけ落ち込んだ後のポジティブモンスターの再始動だ。 単なる空元気の復活ですぐに沈没してしまうのか、それとも奇跡の復活を見せるのか。 俺は何も変わらないのではないかと考えていた。心配ばか ...
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信用買いとテーマ株で爆益
俺は相変わらずのコツコツトレードを続けていた。
弟からの連絡の頻度は高くなかったが、チャットが来ればほとんどが株の話だった。
弟はポジティブゆえに、不調時に株のことで連絡をしてくることはあまりない。だから不調時にチャットが来る時はほとんどがブラウザゲームの話だった。
それが最近では株の話ばかりになっている。
それだけでも好調だということがうかがえた。
俺は12月になってからは弟の成績を聞かないようにしていた。
興味はあったものの、聞くのが怖かった。
正確に言えば、弟の成績を聞くことで自分の信念が崩れてしまうのが怖かったのだ。
だからあまり弟からの株関連チャットは歓迎出来なかった。
しかし12月も半分が過ぎ、俺が冬期講習の準備に入った頃、から弟のチャットは毎日のように来るようになっていた。もちろん毎日が株の話で、テーマ株へのススメだった。
ブロックチェーン技術というものがテーマになり、フィンテック関連株が熱いのだとか。
そう言われて俺も調べてみた。
フィンテックというのは造語で、ファイナンス+テクノロジーというものらしい。
しかしブロックチェーンというものを調べても難しく、それ以上理解しようとは思えなかった。
当然このテーマ株にスイング投資することはなかった。
それでもこの時、弟からチャットでこのテーマに関連した銘柄は一方的に送られてきた。ついでに弟はこのフィンテック関連株で400万オーバーまで資産が増えたということも言ってきた。
400万・・・か。
想定内と言えば想定内だった。いや、むしろ安心出来る範囲だろうか。
ネガティブモンスターになっていた時からまだ1か月も経っていないのに資産が10倍になっていることは確かに恐ろしいのだが、やはり何より俺の資産の半分以下しかないことが安心材料だった。
俺も小さい男だ。
弟が儲かることは喜ばしいことだが、兄を超えられるのは嫌だということだ。
いや、どうだろうか。
果たして本当にそうか。
俺の資産は900万から1000万程度だろう。
俺はこの金額を超えられることを恐れているのだろうか。
どうもそんなに単純なことではないように感じた。
自分自身のことなのによくわからないところがある。ただ2012年末に感じた時と同じ焦りを感じたのだ。それは俺自身がコツコツと長い年月をかけて頑張ってきたものを、弟がほんの1か月そこらで超えていくことへの焦りだ。
そう、金銭的な焦りというよりも、自分がコツコツやってきたことの意味を否定されることが怖かったのだ。恐れの正体、焦りの正体がハッキリとわかった。
時にはプライドなんかいらないから金が欲しいと思って弟に監視銘柄を聞いた。
しかしそうやって金を稼ぐことで違ったプライドが築かれていたのだろう。
俺は自分が金を稼げる人間だと思っているわけではない。トレードがうまいと思っているわけでもない。ただコツコツと頑張って積み上げてきたものがあるのは間違いない。
この行動の積み重ねこそ俺の苦労の結晶であり、プライドそのものだったのだ。
だからこそ、たった1か月という超短期間で弟に抜かれることは、長い年月のコツコツを否定された気持ちになってしまうのだろう。だからこそ俺の資産を超えたか超えないかが大きな焦点になってくるのだろう。
この時点で弟の大躍進は間違いない。素直にすごいと思う。応援もしたい。
でもやはり800万、900万くらいまでにして欲しい。
俺と並んでもいいから、俺を一気に抜き去るようなことはやめて欲しいんだ。
俺の積み重ねてきた頑張りを、俺の少しずつ増やしてきた900万、1000万という資産に『1か月で抜ける額という』レッテルを貼るのだけはやめてくれ。そんな思いが頭の中を巡っていた。
俺は冬期講習前になると大量のコピーなどがあるため、数日間は塾を休みにする。
そしてコンビニに入り浸ってコピーをしたりする。
そのコピー中もスマホを使っては弟の勧めてきたフィンテックテーマ株をチェックしていた。
自分で買うつもりはない。でも弟が買っていることは間違いない。もちろん常に持っているかどうかはわからないが、この銘柄群が上がれば弟が儲かるのは間違いないだろう。
そしてこの銘柄群がストップ高になるような上昇をすれば弟の資産は・・・。
1日2時間にも及ぶコピー作業中はずっとこんなことを考えていた。
そして最後のコピー作業日、ついにフィンテックテーマ株の急騰が起こる。
あ、これは行くやつだ。弟はいくら儲かったんだろうか。
気が気じゃない。
でも俺はこれから冬期講習期間に入る。
株のことを考えたくない俺からすれば渡りに船だった。
朝の1時間くらいはデイトレをしたが、基本的にはすぐに切り上げて塾に出勤していた。
これで弟の成績を気にしないで済むと思っていた。
・・・・・・
「兄ちゃん、ブログに画像ってどうやって貼るの?」