なるほどなるほど、株を取引するためのツールの使い方はわかった。あとは実際に取引してみてどうなるかだ。デイトレというやり方なら上がる株を探す必要なんかない。
ちょっと買って少し上がった時にすぐ売ってしまえばいいのだ。簡単だろう。
デイトレードにチャレンジ
初日はきちんと寝坊せずに起きた。今までの不規則な生活からは考えられないほど健康的な生活リズムだ。まぁこれが普通なんだろうけど。
実際に株を見てみたが、チカチカ動いていてよくわからない。
38円と39円をいったりきたりしている株に目をつけた。
38円になった瞬間、えいやー!っと38円で買い注文を入れた。
「よし!38円で買えただろう」
しかし全く何も反応しない。所持株というところを押してみたが、株を持っている様子もない。あまりにもわからないから証券会社に電話をして聞いてみた。
すると自分が買いたい時に誰かがその値段で売ってくれないと株の売買が成立しないのだとか・・・。今では当たり前に思っていることでも、当時はそんなこともわからず質問していたのだ。
証券会社のお姉さんとの会話でやっと仕組みを理解した。
昼休みを挟みつつ2時間、3時間とパソコンとのにらめっこは続く。
14時も過ぎた頃、ここだ!と思い初めての株を購入。それから1分してすぐに売った。それだけで2万円儲かった。たった1分で2万円も儲かってしまったのだ。
スロットでこんな効率的に勝てることなんてない。
働いていたらこんなに楽に稼げることなんてない。
俺はデイトレに向いている!俺はデイトレで食っていこう。
たった1回、2万円の利益を出しただけで有頂天、デイトレというのは簡単、弟はとても良いものを紹介してくれたものだと思った。その日はずっと気分が高揚していた。
オンラインゲームに顔を出し、1万円分のアイテムを購入し、さらに仲間に1万円分のアイテムを振る舞った。そう、その日のうちに儲けた2万円はパーッと使ってしまったのだ。
「どうせまたすぐに儲けられる」
そう思っていたのだが、翌日から様子は一変した。買うとすぐに含み益といって、潜在的な利益が出ることは多いのだが、結局下がってマイナスになってしまうことが続いた。
3万円勝っていたはずなのに3万円の損になってしまった・・・。
そんなことが続くと投資金を無理やり上げてはさらに損をする。そんな日々に突入していった。株はスロットと違い、お金があればリスクを大きく取ることが出来る。
どんどん投資金を上げていったことで、俺の貯金はみるみるうちに少なくなっていった。
弟から200万円を返してもらうと、その200万円も株資金に回した。
これ以上なくわかりやすい転落。もはや止まることなど出来るはずもなく転げ落ちていった。
何度か弟と話し、株の研究を一緒にしたこともあったのだが、2人とも負ける一方だった。
デイトレがうまくいかないからと、数日間持ち続けるスイングトレードと呼ばれるやり方にもチャレンジした。それでもうまくいかないならと中長期投資にもチャレンジした。
しかし転落中のやつの運気など良いはずもなく、全ての投資手法で負けた。
弟は仕事をしているからどんなに負けても毎月数十万の投資金が補充出来る。
しかし俺には他に収入源がない。これ以上株資金に回すわけにはいかないと思いながらも貯金からどんどん回してしまい、生活費をはるかに上回るペースで大損していった。
弟に恨み節の1つも言いたくなったこともある。
弟が株なんて勧めてこなければ俺はまだのんびりとニート生活を楽しめていたはずだ。
株なんて始めたばっかりに窮地に追い込まれてしまったのだ。
この頃はミサイル問題など、物騒なニュースもよく目にした。
いっそのことこっちに飛んできて消えてしまえたら楽なのに・・・。そんな気持ちにさえなった。
株を始めて1年が経過した頃、総資産は40万円を切っていた。
彼女と行った夏祭りでATMに入り金を下ろした。その時に見た情けない数字。
株がうまくいかないからとスロットに出向いて生活費を補ってきたが、それももう限界だった。
株の口座に34万円、生活費が5万円だ。トータルで550万円も負けてしまったのだ。たったの1年で・・・。今月負けたらもう働くしかない。
いや、仕事を見つけるまでの期間を考えたらもう今からでも働こうとしなければいけないはずでは。それでも最後まであがいてみたかった。
だって俺はニート生活が大好きな社会不適合者。サラリーマンになる自分なんて想像出来なかった。もちろんこれでダメなら、どんなに嫌でも働くしかないだろう。
最後のチャンスと考え、スイングトレードや中長期投資を完全にやめ、デイトレのみでもう一度勝負する決意をした。
もしかしたらとか、一気に取り返したいという甘えた気持ちは全て捨て、最初に考えたように毎日少しずつでも仕事のように稼ぐデイトレードを目指そうと思った。
このやり方でダメなら諦めもつく。そういう取引をしようと思った。