現物取引のみで勝ってきた俺が信用取引を使えばもっともっと勝てるようになると信じて疑わなかった。空売りも出来るようになればチャンスは2倍になるとばかり思っていた。
そんな甘い考えに天誅とも思える一撃が・・・。
前回の話はこちらです。
第3話 デイトレーダーとしての成長
デイトレで負け、スイングトレードで負け、中長期投資でも打ちのめされた俺はもう手詰まりかのように見えた。しかしこの1年間きちんと早起きして株の動きを見続けてきた。 わかっていても出来ないこともあった。全 ...
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初めての信用取引でデイトレード
信用取引が出来るようになるまで、そうは時間がかからなかった。すでに投資実績もあることから審査はあっさりと通過したようだ。
信用取引が始まると、さっそく空売りにもチャレンジしてみた。
なるほど、これは便利だと思った。
最初のうちは順調に進んでいたし、空売りを覚えたことでチャンスも増えたように感じていた。
しかし程なくして空売りにより大きな損失を被った。
せめてこの時に空売りの難しさ、恐怖に気付いていれば・・・。今となってはそう思わずにいられない。
忘れもしない2009年1月下旬、ある株をデイトレードで空売りした。
その1分後、TOB(公開買付)が発表され、一気にストップ高に張り付いた。
この時俺は何が起こったのか全くわからなかった。ただ含み損の表示が増えていき、どうすればいいかわからなくパニックになっていた。数分経ってから発表内容を調べ、TOBに気付いたのだ。
買付価格は俺が空売りをした値段の2.5倍だった。
これにより俺は501000円という損失が約束された。
何もする気が起きなかった。
マジかよ!
うぜぇ・・・
やってらんねぇわ!
こんなセリフも全く出てこないほど憔悴してしまい、ただただぼーっとするしかなかった。
メールを彼女に送った。
今にも死んでしまいそうな雰囲気を察したのか、すぐに電話をくれた。
「後でいっぱい話を聞くよ」
そう言ってくれ、彼女の仕事が終わった後、2人でファミレスに行った。
ここに来るといつも食べていたタコのから揚げとカレーうどんを頼んだ。何が起こったのかを聞かれ、冷静に話しているつもりだったが、何度も涙が出そうになった。
本当につらかった。
何度もうなずきながら彼女は静かに聞いてくれた。そして時折「大丈夫だよ」「また頑張っていこうよ」と優しい言葉をかけてくれた。
501000円だ。過去には550万円も負けた俺だけど、今はあの頃とは違う。
このまま勝ち続けていけると信じていた。もう負けないと思っていた。
そんな中で直面する現実になかなか向き合うことが出来なかった。
気付けばカレーうどんもタコのから揚げも喉を通らず、人生において初めてファミレスで頼んだものを残してしまった。それもかなりの量を。それだけショックだったのだろう。
余談だが、一発で501000円負けるのならまだ違ったのかも知れない。
株のシステム上、ストップ高というものがあるので、1週間くらいかけて501000円負けることが決定していたのだ。刑の執行待ちで並んでいるようなもの。
それだけに生きた心地がしなかったし、よりつらい気持ちになっていた。
彼女とは結婚も考えていたのに、こんなんではとてもじゃないが出来ない。優しい言葉をかけてもらえばかけてもらうほど「ごめん・・・」と思うしかなかった。
俺がサラリーマンになりたくない理由は「朝に早起きしたくない」、「寒い時期は布団から出たくない」、「通勤で満員電車に乗りたくない」、「移動時間が無駄」、「上司にヘコヘコしたくない」
このようなものだ。
しかしデイトレードで感じる苦痛はそれらを大きく超えるものかも知れない。
こんな思いをするくらいなら、我慢してでもサラリーマンになった方が幸せに暮らせるのではないか。サラリーマンになれば安定が得られて結婚も出来るのではないか。
そう思ったら急に株をやめたくなった。
しかし彼女はここまでの俺の努力をずっとそばで見ていてくれただけに、簡単に諦めるのではなくもう少し頑張ってみなよと言ってくれるのだ。
本当に頭が下がる。こんな俺を励まし、再びデイトレードの場に送り出そうとしてくれているのだ。
今はもうあの頃とは違う。
ただ単にニート生活がしたいという思いではない。
楽して稼ぎたいという思いではない。
働きたくないという思いではない。
ただただデイトレードで成功することがこの大好きな彼女のためになる。そして俺のためになる。2人のためになる。そう思ってもう一度立ち上がる気持ちになった。
何より、もうめげない。どんなに負けたってまたそれ以上に勝てばいい。
この日残したカレーうどんとタコのから揚げのことは絶対に忘れないだろう。
せっかく彼女がおごってくれたものだけど、喉を通らなかったからこそ記憶に強く残るはずだ。そしてもう二度とこんな思いをしないためにまた努力をしていこうと強く思った。
そしてそれからしばらくは平穏に時が流れた。
幸いこの時の50万円負けもたった2か月程度で全て取り返すことが出来た。その後も勝ち続け、5月が終わる頃にはもう大きくプラスになっていて、毎日楽しく過ごせるようになっていた。
そんな風に順調に勝っていた6月、弟から衝撃の言葉を聞くことになったのだ。