2009年6月下旬、弟は最後のボーナスを手にして3年間勤めた会社を辞め、専業トレーダーになった。成功して欲しいという気持ちとともに、専業トレーダーとして先輩の俺が置き去りにされる恐怖も感じていた。
弟のデイトレーダーとしての才能は退職と同時に発揮された。
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第5話 弟の退職!専業トレーダー宣言
順調に資産を増やし、トータルで負けていた550万円も半分以上取り返すことが出来ていた。しかし一気に取り返そうと思ってはまた大負けをしてしまう恐れがある。 このままゆっくり取り返していこうと思った。 そ ...
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デイトレーダーとして開花
6月下旬、弟は無事に退職し、デイトレーダーとなった。
俺は実家の近くに彼女とともに住んでいたが、弟はちょっと離れた場所に家を借りた。近くに住めばいいのにと思ったが、弟なりに考えがあったのだろう。
弟がデイトレーダーになってから数日、状況を聞いてみることにした。
恐らく苦戦して困っているだろうと思ったのだ。
俺は6月も問題なく勝っていたので、もしだったらアドバイスを送るつもりでいた。
俺「デイトレの調子どう?」
D「やっぱりデイトレなら勝てるね!調子いいよ」
ドクン・・・
心臓が高鳴った。弟は自信家ではあるが、そんな簡単に調子がいいとは言わない。
もしかしたらたった数日で10万、20万と勝ったのだろうか・・・。
俺「どのくらい勝ったの?」
D「資産が400万は超えた。500万近いんじゃないかな」
は?はぁっ!?なんだって?
確か300万の元手で会社辞めたんだろ?
しかも退職までの間に少し負けて実際には手元に300万なかったはず。
引っ越しにも金はかかっただろう。
詳しくはわからないけど、投資金は250万以下だったんじゃないか。
それがたった数日で400万オーバー・・・500万近いって・・・。
どういうやり方をしたらそんなことになるんだろうか。
俺には全くわからない。恐らくは得意のハイリスクハイリターン投資なんだろう。
それにしてもわからない。
俺「どんなやり方したらそんな風になるんだ?」
D「信用MAXでこの銘柄買ってるんだよね」
言われた銘柄を調べるとここ数日でけっこう上がっている。
でもだからと言ってほんの数日で250万とか勝てるもんなのか?資産が2倍になるもんなのか?それが株のポテンシャルなのか。それがデイトレなのか。それが専業トレーダーというものなのか。
だったら俺は一体なんだ?俺がやってるのはなんなんだ?
株を始めた頃のことを思い返してみた。
確かに大きく勝つことを夢見てきた。一気に大金を稼ぐイメージを抱いた。
そして実際に大勝ちしようと一生懸命やってきた。
しかしその度に大負けをした。
だからこそ大きく勝つことを捨て、コツコツ地道に稼ぐ努力をしてきた。
そして勝てるようになり、2年間頑張って生活費プラスアルファを稼いできた。
これでいいと思っていた。このままでいいと思っていた。
少しずつでも勝ち額が増えていけばいいと思っていた。
信じていたもの全てが崩れてしまうような恐怖を感じた。
弟の成功は喜ばしい。素直に嬉しいところだ。
でも、俺を置いていかないでくれ・・・。
やっと勝てるようになったんだ。空売りで50万円負けてどん底を味わっても取り返せたんだ。また笑えて株が出来るようになったんだ。それだけ苦労も経験も積み重ねてきたんだ。
弟よ・・・お前はまだデイトレーダーとして何もしていないじゃないか。
何の苦労もなくあっさり俺を追い抜いていった弟よ・・・。
俺は自信をなくしたよ。
このままでいいだなんて思えないよ。
なんとかしようと思った。
とにかく株の研究をした。何もわからなかった3年前とは違う。少額とは言えデイトレで勝てるようになったのだ。この状態できちんと研究をすればいけるはずだ。
デイトレ初心者の弟がそれだけ勝てて、俺に出来ないはずはないだろう。
とにかく食らい付くつもりで研究を重ねた。
そしてその結果!
何も変わらなかった・・・。
もうリスクを取れない身体になっていたのだ。
負けない投資を心掛け、少しずつでも勝つことを考えてやってきたからというのもあるだろう。ただそれだけでなく、空売りの50万円負けによる心の後遺症もあるのだろう。
どうしてもリスクが取れず、弟のようにはなれなかった。
もうこのまま俺はちまちまセコイトレーダーを続けるしか出来ないんだ。
悲しくなった。悲しくはなったけどどうにも出来ないことも悟った。
俺は俺、弟は弟だと言い聞かせて頑張ることにした。
そしてその数日後。
D「結局あの後下がってまた300万切っちゃったわ」
俺「マジかよ・・・」
いきなりの快進撃を聞いて自分のやっていることの意味さえ見失いかけていたものの、弟のこの言葉で完全に我に返った。
弟が戻ってきてくれたことを喜んではいけない立場なのはわかっている。
でも、やはりハイリターンを狙えば相応のリスクがあるのだ。
生活費が保証されていての一発狙いのトレードならそれでもいい。しかし俺らは生活費も株で稼がなければならない専業トレーダーなのだ。
今のままコツコツやっていくのが一番だろう。
そう思って自分の道を突き進むことにした。
しかしこの先も多くの困難が俺たちを待ち構えていたのだ。