いよいよ落ち込むだけ落ち込んだ後のポジティブモンスターの再始動だ。
単なる空元気の復活ですぐに沈没してしまうのか、それとも奇跡の復活を見せるのか。
俺は何も変わらないのではないかと考えていた。心配ばかりが募り、期待は一切なかった。
前回のお話はこちらです。
第46話 妻に筒抜け兄弟チャット
弟との長い会話が終わった。塾では授業が疎かになってしまったこともあり、延長授業をすることでなんとか帳尻を合わせた。それにしてもこの会話でどうなることか。 果たして効果は表れるのだろうか。 前回のお話は ...
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順調な滑り出し
再始動初日、弟はそこそこ勝っていた。
俺も勝っていたが、俺より額が多い。相変わらず信用余力はMAXまで使っている。では何か変わったのか。それはイナゴトレードに徹しているという点だ。
チャートの分析などに使っていた時間をイナゴトレード用準備に切り替えたのだ。
俺は数日間、大引け後に弟に結果を確認した。
するとなかなかのペースで勝ち続けている。
俺「出金した?」
D「いや、まだ全然(笑)」
俺「ちゃんと出金しとけよ」
D「出来るようになったらしたいんだけどね」
あの日の会話の中で勝ったら半分出金するということに賛成していたはずの弟だ。しかしその作戦には大きな穴があることにここでやっと気付くことになる。
弟は信用余力MAXでデイトレをするだけでなく、信用余力MAX+現物余力MAXで持ち越すトレーダーだ。しかもこの癖も全くもって直る気配がない。いや、直す気さえないのだろう。
すると出金余力は毎日毎日0のままだ。
これでは出金なんてどこまでいっても出来るはずがない。
極論として1000万勝ったって出金は0だ。
俺「どうする気?」
D「100万超えてもう少し軌道に乗ったらちゃんと出金するよ。そういえばA銘柄とB銘柄上がったでしょ。」
俺「確かに上がってるけどチャートがいいとかで持ち越すのやめるって言ったじゃん」
D「いや、これは絶対いけるはずなんだよ」
弟の言い訳の中にあった〇〇さえしなければの中には、ブッコミや持ち越しも含まれていた。それなのにモロにやっているわけだ。あの日の会話で精神面は確かに復活した。
しかしやっていることはあの日以前と何も変わっていないのではないか。
確かにイナゴトレードに重点は置いたものの、〇〇さえしなければと言っていた内容をさっそくやっているようでは年内退場はほぼ間違いないだろうと俺は確信しだ。
この日以来、俺は弟の結果を聞くのをやめた。
どうせどこかで破産になり退場になると思った。
これ以上聞いていると、負け始めた時に説教してしまいそうで嫌だったのだ。
数日後、弟の方からチャットがきた。
D「C銘柄スイングで絶対いけるからオススメ!」
俺「いや俺絶対持ち越さないからいいよ」
D「短期でいけるっていう情報が色んなところで流れてるんだよ。それにテーマに沿ってるんだ」
弟は昔から低位株を好む。俺はあの日、低位株も極力やめるように提案した。これは却下された意見だが、低位株は仕手が入りやすく、人為的な株価になりやすい特徴がある。
もっと自然な値動きをする銘柄の方が安定するというのが俺の意見だ。
今回のC銘柄は低位株。やはり何も受け入れられていない。
俺の手法は完全デイトレードであり、その日のうちに必ず売買を完結させる。ゆえに持ち越しなどストップ安に張り付けられた時くらいしかしない。それは弟も知っているはずだ。
それでもゴリゴリと勧めてくる。
俺は低位株を好まないため、持ち越さないどころか買うこともない。
しかし弟があれだけ自信を持った銘柄だ。どんなものかと値動きは追っていた。
数日後、マザーズ指数に大きな下落があった。それまでの間、C銘柄は上昇していたものの、その日はさすがに大きな下落となった。それまでの上昇を打ち消すまではいかないが、かなりの下落率だった。
弟はかなりの金額を負けたはずだ。
俺「今日大丈夫だった?」
D「C銘柄で10万以上負けたけど全体ではトントンで済んだかな」
なんだと!?
この言葉の中には2つの想定外がある。
C銘柄で10万以上負けた・・・だと?今日の下落は10%以下だ。それなのに10万以上ってことはC銘柄1つに100万円分以上突っ込んでいるのは明確だ。
信用余力も全力で買っているのならわかる。
しかし全体ではトントンということは他で10万以上勝っている。それだけ勝てるということは他に使った資金も100万程度、いやそれ以上あるということになる。
弟は思っている以上に勝っているのかも知れない。
それに今日は暴落日。
いつもなら指数が暴落した日は道連れにされて大負けしていたはずだ。
それなのにきっちり他銘柄で勝ち切った。これも俺からすると大きな想定外だ。
手法も思考も何も変わってないかのように思えた弟。
きっちり変わってるじゃねぇか・・・。
急に恐ろしくなった。弟の資金を聞くとまだ100万ちょっとだ。そこまで多くないという思いよりも、40万からこの短期間で3倍近くにしたという事実の方が衝撃的だった。
もしかしたら俺はまた奇跡の証人になるのかも知れない。
そう思わざるを得なかった。
資金が短期間で3倍になることくらい弟の歴史の中では何度もあっただろう。弟に限らずそのくらいの経験ならば信用余力をMAXに使う人からするといくらでもある話なのかも知れない。
でも俺にはわかる。
弟の持つ雰囲気や流れをずっと近くで感じてきた俺にはわかるんだ。
下り坂は落ち切るまでは止まれないということは俺も経験済みだ。
しかし登った後は下るのが必然だったように、一番下まで落ちた後はまた登るのも必然なのかも知れない。
俺自身も一番下から這い上がってきたんだ。
俺は気が気じゃなかった。
勇気付けたし元気付けたし応援もしている。けれど、俺の提案を却下したままに大復活を遂げたらまるで俺はピエロじゃないか。少なくとも俺の成績や総資産を超えたりするなよ。
それだけはやめてくれよ。もう無言で俺を否定するようなことはやめてくれ。
ポジティブモンスターの大逆襲はすでに始まっていた。